【SAP on AWS】AWS上でSAPを稼働させる際の環境制約とAWSへの移行ツールの特徴

1. 概要

本投稿では、SAP on AWSに関して、主にAWS上でSAPを稼働させる際の環境制約とAWSへの移行ツールの特徴を記載しています。実際の移行案件において発生しがちな想定外の仕様制約による手戻りのリスクを低減できたらと考え記載しました。


[対象読者]
SAP on AWSに関する基本的な用語を把握している方
AWSの主要サービスの仕様を把握されている方

注)AWS公式ドキュメントやインターネットから拾い集めた情報を個人的に解釈した結果を記載しています。実機確認等による裏付けがされた内容ではない点、ご留意ください。

2. 制約  

SAP on AWSには、AWS上でSAPを稼働させることならではの順守すべき制約があります。
特に、 AWS上でサポートされるDBとOSの組み合わせは要注意です。オンプレミスでサポートされていたDBと各バージョンはAWS上でもサポートされます。しかし、 AWS上ではサポートされるDBとOSの組み合わせに制約が有り、オンプレミスで利用できていたDBとOSの組み合わせの一部はAWSではサポート不可の組み合わせとなってしまう点は要注意ポイントです。
詳細については下記をご参照ください。

2-1. SAP on AWSで利用可能なOSとDBの種類

2-1-1. Supported Operating Systems

EC2 instances run on 64-bit virtual processors based on the Intel x86 instruction set. The following 64-bit operating systems and versions are available and supported for SAP solutions on AWS.

SAP on AWS Planning - General SAP Guides

2-1-2. Supported Databases

All the database platforms and versions supported by SAP for an on-premises infrastructure are also supported by SAP on AWS. For details about the databases supported with specific SAP solutions on AWS, see SAP Note 1656099.

SAP on AWS Planning - General SAP Guides

2-1-2-1. SAP HANA on AWS

Operating System for Deployment - SAP HANA on AWS

2-1-2-2. Oracle

Oracle for SAP on AWS is supported on an OEL OS.

Prerequisites - SAP NetWeaver on AWS

2-2. SAPサポートを受けるために順守すべき構成

  • Amazon CloudWatchの詳細モニタリングが有効であること
  • AWS Data Provider for SAPがインストール・構成済みであること
  • Business Support または Enterprise SupportレベルのAWSサポートプランであること

docs.aws.amazon.com

2-3. Overlay IP

Overlay IPアドレスVPCに設定しているIPアドレスレンジの外側のIPアドレスを使用する必要があります。 catalog.us-east-1.prod.workshops.aws

3. 移行

3-1. 移行の種類

Homogeneous migration と Heterogeneous migrationという2種類の移行の考え方があります。 Homogeneous migration ではOS,SAP,DBがソース環境とターゲット環境で同じであることが要求されます。Heterogeneous migration はそれらを変更しながら移行する事を意味します。

Migrate and optimize SAP S/4HANA on AWS - AWS Virtual Workshop - YouTube

3-2. 移行ツールの選び方

Export,Copy,Provisioning,Importの4つの移行のポイントでそれぞれなんのツールを使用するべきか検討が必要です。 以下の図がわかりやすく情報を整理してくれているので、この図を基に検討するのが良いと思います。
Migrate and optimize SAP S/4HANA on AWS - AWS Virtual Workshop - YouTube

ここでは、主な移行ツールについて、選ぶ際のTipsを簡単に紹介します。

3-2-1. Export/Import

3-2-1-1. 大雑把な選び方

移行ツールは大きく分けてAWSが提供するツールとSAPが提供するツールがあります。 基本的にHeterogeneous migrationを行いたい場合は、SAPが提供するツールが候補になります。

3-2-1-2. システム移行
3-2-1-2-1. AWS Application Migration Service (CloudEndure Migration) ,AWS Server Migration Service (AWS SMS)

既存の環境のシステムイメージをそのままAWSへコピーしたい場合(Homogeneous migration)、これらのツールが候補になります。
以下の記載の通り、 Application Migration Serviceの使用が推奨されています。ただし、AWS SMSにはエージェントlessで使用可能という特徴があるため、既存システムのセキュリティ要件などによりエージェントの導入ができない場合は、AWS SMSを使用します。

AWS Application Migration Service (AWS MGN) は、AWS へのリフトアンドシフト移行に推奨される主要な移行サービスです。現在 Server Migration Service (SMS) を使用しているお客様には、将来の移行のために Application Migration Service に切り替えることをお勧めします。
AWS Server Migration Service(AWS へのオンプレミスサーバーの移行)| AWS

3-2-1-2-2. Software Provisioning Manager(SWPM)

Heterogeneous システムコピーに使用するツール。
ソースシステムからのエクスポートと、ターゲットシステムへのインストールを行ってくれる。 blogs.sap.com

3-2-1-3. データベース移行
3-2-1-3-1. SAP HANA System Replication(HSR)
  • SAP HANAからSAP HANAへのレプリケーション
  • 移行時にシステム停止がほとんど許容できない場合の最有力候補。
  • スケールアウト,スケールアップしたターゲットDBへのレプリケーションも可能。
3-2-1-3-2. Database Migration Option (DMO) of SUM
  • AnyDB(DB2,Oracle,SQL Server等)からSAP HanaへのMigrationが可能。
  • ターゲット環境はあらかじめAWS Launch Wizardによりプロビジョニングされている必要がある。
  • DMOによりExportされたデータはAmazon S3 Multi-Part Upload, AWS Storage Gateway(File Gateway),AWS DataSyncにより転送する必要がある。
3-2-1-3-3. Backup/Restoreによる移行(Amazon S3 Multi-Part Upload, AWS Storage Gateway(File Gateway))

主にBackup/Restoreにより移行する際に使用する手法です。
AWSが公開しているYouTubeでは、Homogeneous migrationにS3を使用した方法が紹介されています。
Migrate and optimize SAP S/4HANA on AWS - AWS Virtual Workshop - YouTube

AWSのブログではStorage Gateway(File Gateway)を使用した方法が紹介されています。
Integrate an SAP ASE database to Amazon S3 using AWS Storage Gateway | AWS Storage Blog

その他、データのサイズが大きい場合はSnowballの利用を検討します。

3-2-2. Copy

  • Amazon S3 Multi-Part Upload, AWS Storage Gateway(File Gateway),AWS DataSync,Snowballといった選択肢があります。(各サービスの使い分けについては割愛)

3-2-3 Provisioning

基本的にはAWS Launch Wizardを使用することがベストプラクティスです。その他、制約で記載した内容に注意してプロビジョニングしましょう。

  • 事前にProvisioningに必要なSAP資材をダウンロードし、S3にアップロードしておくこと。(Launch Wizardにてパスを指定する。)

  • AWS環境作成のためCloudFormationテンプレートを用意すること。

  • AWS Launch Wizardは完了までに数時間かかるため、DRのシナリオでRPOに制約がある場合は事前に環境構築しておくこと。

4. まとめ

  • Export,Copy,Provisioning,Importの4つの移行のポイント毎に移行戦略を検討します。

  • Export/Importでは、Homogeneous migration と Heterogeneous migrationのどちらの移行を行うのかを決め、それを実現できるルールを選定する。Heterogeneous migrationを行いたい場合は基本的にはSAPが提供するツールが候補になります。

  • CopyではAmazon S3 Multi-Part Upload, AWS Storage Gateway(File Gateway),AWS DataSync,Snowballといった選択肢があります。

  • Provisioningは基本的にはAWS Launch Wizardを使用すればよいが、制約で記載した内容に注意が必要です。